DNAを長期保存する標本の作製手法
DNAを長期保存する標本の作製手法について、ご紹介いたします。(現在、昆虫標本について開発済み)
※1 掲載された情報をご利用いただいた結果、ご利用者に損害等が発生したとしても、当方が一切責任を負うものではありませんのでご了承ください。
※2 本手法では少なくとも1500bp程度のDNAは保持可能です。ゲノムDNAを完璧に保存される際には、やはり冷凍保存が最適です。詳しくはTIP3をご参照ください。
必要な物品・試薬
・昆虫針や平均台、ピンセットなど、通常の標本作製に必要な物品
・99%プロピレングリコール
・0.2mlチューブ (PCR用チューブ)
・パラフィルム
・スポイト
・アルミホイル
※プロピレングリコール、0.2mlチューブ、パラフィルムなどは通販 (モノタロウなど) で入手可能。
殺虫方法
1.酢酸エチルの蒸気で殺虫 (密閉できるビンにティッシュ数枚と酢酸エチル数滴を入れ、昆虫を入れておく)。もしくは冷凍庫で数時間保管。酢酸エチルで殺虫する場合、できる限り殺虫時間を短時間とする。また殺虫中、温度が高くなりすぎないようにする。殺虫後、なるべく早くDNAサンプル作製作業に移る。
標本作製・保管方法
1.殺虫を確認後、昆虫から筋肉組織 (脚部や胸筋など) を切り取る。切り取る際、毎回ピンセットを洗っておく (標本間でDNAが混ざるのを防ぐため)。
2.切り取った筋肉組織を、99%プロピレングリコールとともに0.2mlチューブに保管する。プロピレングリコールの扱いの際にはスポイトが便利。筋肉組織が大きい場合、脱水のために一度99%プロピレングリコールを入れ替えておく (水分があるとDNAが劣化するため)。
※1 プロピレングリコールの液漏れや蒸発防止のため、チューブの蓋をパラフィルムで巻いておく。
※2 紫外線によるプロピレングリコールの劣化や、万が一の衝撃によるチューブの散逸を防ぐためにアルミホイルを巻いて遮光するとよい。
3.チューブの蝶番に昆虫針を刺し、昆虫の乾燥標本とともに保管。ドイツ箱で常温保管でよい。
4.蝶番による固定が弱く、チューブが回転する場合、追加の昆虫針で適宜固定しておく。
標本DNAサンプル用ラベルの作成
DNAサンプルの作り方によっては劣化の恐れがある。DNAの劣化の程度を推測するため、以下の内容を記載したラベルを作っておくとよい(適宜英語も表記)。
・殺虫~保存までの方法と年月日
・保存液の種類と濃度
DNA抽出時の注意点
1.DNAを抽出する際には、チューブから筋肉組織を取り出し、別のチューブに移す。99%エタノールで筋肉組織を1-2度洗浄してプロピレングリコールを除去する。エタノールが蒸発すると、通常のDNA抽出に利用可能。
※1 本手法を使用された場合、こちらの論文を引用してください。
Nakahama N, Isagi Y, Ito M. (2019)
Methods for retaining well-preserved DNA with dried specimens of insects.
European Journal of Entomology, 116: 486-491.
https://doi.org/10.14411/eje.2019.050
※2 掲載された情報をご利用いただいた結果、ご利用者に損害等が発生したとしても、当方が一切責任を負うものではありませんのでご了承ください。
※3 本手法では少なくとも1500bp以上のDNAを保持可能です。もしより長いDNAを保存されたい場合には、やはり冷凍保存が最適です。詳しくはTIP3をご参照ください。