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執筆者の写真Naoyuki Nakahama

スズサイコの花粉塊をはこぶ昆虫 (スズサイコの送粉生態学的研究2)

スズサイコの花粉塊をはこぶ昆虫たちについて紹介する前に、なぜこうしたことを調べる必要があるのでしょうか?


被子植物のうち、花粉媒介を昆虫に頼る植物が多数派です (残りは風や水など)。仮に、こうした昆虫たちがいなくなってしまった場合、その植物はどうやって受粉をすればよいのでしょうか??実際、花粉の媒介をしてくれる昆虫たちが減少した場合に、植物の繁殖成功も減少したという例はあちこちで報告されています。


たとえばこちら。

Sakata, Y., & Yamasaki, M. (2015). Deer overbrowsing on autumn‐flowering plants causes bumblebee decline and impairs pollination service.Ecosphere,6(12), 1-13.

こちらの論文では、最近のニホンジカの全国的な増加に伴いマルハナバチが減少し、それにより多くの植物の結実率が低下してしまったことを報告しています。

論文は無料で読むことができますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。


絶滅危惧種であるスズサイコは、なぜ最近減少したのでしょう?もしかしたら花粉塊をはこぶ昆虫に理由があるのかもしれません。そもそもスズサイコの花粉塊をはこぶ昆虫は何なのでしょうか?


私たちはその謎をとくため、スズサイコの開花時期 (6~8月) に調査を行いました。

調査方法は比較的シンプルです。10秒間に1回の頻度でインターバル撮影をするカメラを花の前に設置し、夜間に花を訪れる昆虫を観察するというものです。撮影した後には研究室に持ち帰り、花に来ていた昆虫の確認をしてみました。



その結果がこちら。左上はカの一種、左下はハエの一種、右上は小型蛾類の一種 (ヤガ科)、右下は中型蛾類の一種 (ヤガ科)になります。右上の個体は花粉塊を口吻の先につけており、まさに花粉塊を運んでいることが一目瞭然です。


調べたところ、花に来ていた昆虫のうち、ほとんどはこの4つのグループ (カ類、ハエ類、小型蛾類、中型蛾類)でした。いずれも夜間にのみ、訪花が観察されました。また、体表に花粉塊を付けていた個体 (花粉塊の送受粉に貢献していた個体) は、すべて小型・中型蛾類でした。ということは、これらの昆虫がおもに花粉塊を運んでいるということが分かります。


また興味深いことに、いずれの昆虫もレッドデータブックなどに記載されているような絶滅危惧種は全く含まれておらず、どちらかというとふつうにみられる種ばかりでした。


ということは、スズサイコの最近の減少は、まったく別の要因によって引き起こされたのかもしれません。次回の記事以降で、スズサイコの真の減少要因に迫っていきたいと思います。


(参考文献)

今回紹介した研究成果は、以下の論文で掲載されています。

中濱直之, 丑丸敦史, & 井鷺裕司. (2013). 兵庫県宝塚市西谷地区における準絶滅危惧種スズサイコ Vincetoxicum pycnostelma Kitag. の繁殖特性及び訪花昆虫相.地域自然史と保全,35(2), 115-123.

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