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執筆者の写真Naoyuki Nakahama

地域の生物相を調べてみよう

 生き物好きな皆さんの中には、いつもご自身が通っていらっしゃる、いわゆるマイフィールドをお持ちの方もおられるかと思います。

 そうしたフィールドに生息する生き物のリストは、Fauna (動物相) やFlora (植物相) と呼ばれ、生物多様性の記録としてとても重要になります。この記事では、地域の生物相の記録や報告の仕方についてご紹介いたします。


筆者の個人的な経験

 私は大学の学部から大学院までを京都で過ごしておりました。もともと生き物は好きで大学の裏山などによく採集に行っていたのですが、大学院以降は研究室の研究内容の関係上、京都大学芦生研究林に行く機会がとても多くなりました。せっかく行くのであれば、なにかついでにデータを取らねばもったいない!と思い、ひとまず目についた甲虫は片っ端から採集することに。研究林に行くたびに昆虫採集をしては、標本を作るの繰り返しです。

 博士後期課程3年の頃にはかなりの種数・個体数が集まっていたので、2本の論文にまとめることができました。1本目はカミキリムシ科に絞った論文、2本目は甲虫類 (鞘翅目) 全体に広げた論文です。


Nakahama N, Takayanagi A. (2015)

Longicorn Beetles Collected  in Ashiu Forest, Kyoto Prefecture, Japan from 2008 to 2014. 

Elytra New Series, 5: 251-256.


中濵直之, 瀬口翔太, 藤本将徳, 有本久之, 伊藤建夫, 藤江隼平, 高柳敦. (2019)

京都大学芦生研究林で2008年から2016年まで採集された甲虫類. 

大阪市立自然史博物館研究報告,  73: 91-106.


 標本作製、同定からデータの取りまとめまではなかなか骨が折れましたが、共同研究者の助けもありまとめることができました。またこちらは京都大学芦生研究林のウェブサイトでもご覧になることが可能で、とても達成感のある仕事の一つです。

 それではここから、生物相のまとめ方についてご紹介します。


どこで?なにを?対象とするかを決めよう

 まずはどこでどんな生き物を調べるかを決めます。最初から広範囲、また広い分類群とするとなかなか調査やまとめが大変なので、最初はある程度絞って、無理のない範囲のほうがよいかもしれません。

 調査地は、ご自身が今後も定期的に通える(また思い入れがある)場所ですと長続きするかと思います。また調査の際には、土地の所有者などに許可を得ておくことが必要になります。

 分類群によっては同定が難しいグループも多いので、まずは同定の簡単な分類群からまとめることを目指す、もしくはその分類群の専門家に同定をお願いするほうがよいでしょう。


データをあつめよう

 調査地と分類群が決まったら、まずはデータを集めるところからです。単純に生物相を記載するだけでしたら、とにかく行って見つけた生物の種数と個体数を記録していきます。この時、可能な限り標本は作製しておきましょう。標本を残しておくことで、同定が正しかったのかどうかを後々検証することが可能になります。

 また個体数を比較することが必要な調査でしたら、調査ルートや調査時間を決めておく (先行研究と同じ調査方法にしておく) ことで、定量的な比較をすることが可能になります。単純に生物相のみを知りたいときは不要ですが、ほかの地域と比べたい、過去のデータと比較したいなどの時には、調査方法を統一しておくことも重要です。


記録した生物の同定・標本作製

 最近は非常に高品質な図鑑が多数出版されています (オススメの図鑑についてはまた後日ご紹介します)。こうした図鑑は同定の際にとても役に立ちます。ただし、それでも自分ではどうしても同定できない場合、無理やり似ている種に根拠なく同定してしまうのはご法度です。その場合は、○○属の一種、○○科の一種としておき、標本を残しておくと後世の研究者が検証してくれるかもしれません。また、その分類群の専門家に同定を依頼する手もあります。


報文・論文の執筆

 ある程度データがたまってきたら、いよいよ執筆です。こうした報文や論文の書き方の教科書としてオススメはこちらの書籍です。


濱尾章二 (2010) フィールドの観察から論文を書く方法. 文一総合出版, 東京.


 投稿先も同好会誌、学術雑誌 (国内誌・国際誌)、大学や博物館の紀要、商業誌など様々です。学術雑誌、大紀要、一部の同好会誌でしたら最近はウェブ上で無料で見られるところも多くなりました。こうした雑誌ですと論文へのアプローチが楽になるので、引用されやすいというメリットがあります。

 また学術雑誌や紀要の場合、査読付きの論文として出版されることが多くなります。査読がされることで質が担保されるというメリットがありますし、何より研究者を目指しておられる学生さんにとっては、今後論文を出版するうえでよい経験になるので、個人的にはオススメです。

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