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執筆者の写真Naoyuki Nakahama

生き物の新記録報告をしてみよう

 生き物の観察や採集をしていると、「え?このいきものがこんなところに??」という、驚きの発見も少なくありません。そうした生き物の記録は、将来的な生物相リストのとりまとめレッドデータブックの作成に大きく役立ちます。また前回の繰り返しになりますが、研究者を目指す若い皆さんにとっては、論文や報文など科学的な文章を書く経験は必ず役立ちます。どうしても運に左右されてしまうところもありますが、前回の生物相解明のようにそこまで大きな労力がなくとも論文や報文を書く機会に恵まれるのもいいですね。


今回は、新記録報告について簡単な解説をいたします。


報告できるのはどんな内容?

 もっともわかりやすいものであれば、国や都道府県レベルの分布初記録でしょうか。また初記録だけでなく、数十年間記録のないものや、2~3例目なども報告する価値は大きいかもしれません。その場合、できる限り標本を残しておくようにしてください。

 また、行動や生活史などの解明につながる観察例も十分に報告する価値はあります。その場合は一連の動画や写真など、証拠になるようなものは必要となります。


文献記録を探してみよう

 「これは大事な記録だ!」と思っていても、実はすでに報告がなされているかもしれません。まずはこれまでの文献記録をあたり、本当に記録がないかどうかを調べてみましょう。都道府県によっては、分布している生物の目録が出版・閲覧されているところもあります。また、地域の研究会誌・同好会誌にもひんぱんに新記録報告は掲載されていますので、それらをあたってみるのもよいかもしれません。

 まずはこうした文献調査をオススメしますが、どうしてもわからない!自分が調べた限りは記録はないけど、本当に網羅的に調べたか不安だ!という方もおられるかもしれません。その場合は、地域の自然史博物館や大学の専門家、また研究会や同好会の専門家に問い合わせてみるのもいいかもしれません。


文章を書いてみよう

 文章の構成としては、通常の論文と同様に「導入」→「方法」→「結果」→「考察」となりますが、雑誌によってはこうした4つを分類せずに短くまとめる論文 (短報)も多いです。まずは投稿先として考えている雑誌を読んでみて、おおよそのイメージをつかんでましょう。また書き方としては、やはりこちらの書籍がオススメです。


濱尾章二 (2010) フィールドの観察から論文を書く方法. 文一総合出版, 東京.



投稿先の雑誌

 先日の記事と同様、こちらも同好会誌、学術雑誌 (国内誌・国際誌)、大学や博物館の紀要、商業誌など様々な選択肢があります。

ちなみに学術雑誌の場合、昆虫であれば日本昆虫学会、植物では日本植物分類学会など、対象分類群に焦点を絞った学会の雑誌で掲載されることが多いです。また、「Bioinvasions Records」という外来種専門の学術雑誌などもあります。

 研究会誌・同行会誌、紀要は各地にありますのですべてを紹介しきれませんが、やはりウェブ上で内容を確認できるもの (せめて目次だけでも) のほうが、後々引用されやすくなるかと思います。


注意!

 絶滅危惧種や人気のある種の場合、詳細な採集場所の記載は慎重になったほうがよいかもしれません。その記録を見ることで、愛好家が押し寄せてトラブルのもとになる可能性もあるからです。ご自身で判断がつかない場合、博物館や大学の専門家などに相談したほうがいいかもしれませんね。




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